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宅地建物取引士 監修 逆瀬川勇造
明治学院大学を卒業後、地方銀行にてリテール業務に従事し顧客の住宅ローンやカードローンなど担当。その後、住宅会社の営業部長として新築住宅の販売や土地開発等の業務に7年間従事しました。 Webを通して住宅や不動産の問題を解決することを志向し2018年10月に独立。 最近の趣味は子育てです。
市街化調整区域は「原則として建物を建てられない」エリアです。この市街化調整区域にある土地は売買することができるのでしょうか?
本記事では、そもそも市街化調整区域とはどんな区域なのか?といった基本的な知識から、市街化調整区域の土地を売買するときの注意点、買主の動向など解説していきます。
この記事の目次
市街化調整区域とは
市街化調整区域とは、都市計画法に定められる「都市計画区域」の1つで「市街化を抑制すべき区域」とされます。
都市計画区域には、ほかに市街化区域と非線引き区域があります。
市街化区域は「すでに市街化を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」、非線引き区域は市街化区域と市街化調整区域の区域区分がされていない都市計画区域です。
かんたんに言えば、市街化区域は積極的に建物を建ててよいエリア、市街化調整区域は建物を建てるのに許可が必要なエリア、非線引き区域とはまだ区域がされておらず、一般的に市街化区域や市街化調整区域と比べて制限の緩いエリアと言うことができます。
都市計画区域の種類 | 定義 | 建物の建設 |
---|---|---|
市街化区域 | ・すでに市街化を形成している区域 ・約10年以内に優先的かつ計画的に市街化すべき区域 |
積極的に建物を建てて良い |
市街化調整区域 | 市街化を抑制すべき区域 | 原則、建物を建てられない。立てるには許可が必要。 |
非線引き区域 | 市街化区域・市街化調整区域の区分がされていない都市計画区域 | 建物を建ててよいが一定規模以上の開発には都道府県知事の許可が必要 |
原則として市街化調整区域に建物は建てられない
先述のとおり、市街化調整区域で建築物を新築したり、建て替えしたりするには行政の許可が必要となります。
建物を建てられないと土地の活用方法も限られてしまうため、売買価格にも影響を与えます。
基本的には、市街化区域の価値が一番高くなりやすく、次いで非線引き区域、市街化調整区域と続きます。
市街化調整区域ができた理由
市街化調整区域は全般的に農林水産業をおこなう地帯とすることが想定されており、農地を守るために設定されるのが一つの理由です。
市街化調整区域では原則として「開発行為」や「都市施設(道路や公園など)の整備」を行わないこととされていますが、一定規模までの「農林水産業施設」については整備が可能です。
市街化調整区域は市街地から離れた郊外に設定されることが多く、土地価格も安くなりやすいです。
そのため、安く住宅を建てたい人にとっては不便さを我慢してでも購入するメリットがあります。
一方で、政府は市街地周辺に行政機能や商業機能、居住エリアを集約させる「コンパクトシティ構想」を掲げており、以前より市街化調整区域に建物を建てるのが難しくなっている自治体もあります。
市街化調整区域で建物を建てられるケース
具体的にどのようなケースで、市街化調整区域に建物を建てられるのでしょうか?
なお、市街化調整区域における建築許可の基準は自治体によって異なるため、ここでは一般的な内容をお伝えします。
農家住宅(分家住宅)である
この要件に当てはまる方はあまり多くないかと思いますが、農業従事者であれば「所有する土地の上に居住用の建物を建築する」のであれば許可が不要です。
これを農家住宅と呼びます。
さらに、農業従事者の子どもなど世帯員の一部が独立して建てた建物を分家住宅と呼び、農家住宅よりは厳しいものの、一般の住宅と比べると建てやすいです。
分家住宅の許可の要件も自治体によって異なりますが、例えば面積要件(400㎡以下等)や本家世帯からの相続や贈与で土地を取得したこと、接道要件を満たしていることといったものが挙げられます。
開発許可を得ている土地
市街化調整区域内の土地であっても、すでに開発許可を得ている場合は建築が可能です。
現在は開発許可の要件が厳しくなっているものの、過去に開発許可を得ているようなケースでは許可を再利用できることがあります。
また、過去に開発許可を得て建てた建物と土地であれば、同用途・同規模の建物であれば建て替えも可能です。
43条許可を受けられる土地
市街化調整区域は、原則として住宅を建てることができません。
ただし、市街化区域から1km圏内だったり、市街化区域まで4mの道路でつながっていたりする場合には都市計画法43条の許可を得て建物を建てることができます。
この許可基準は自治体により異なりますが、政府の進めるコンパクトシティ構想に沿う形で法整備が進められており、条件が厳しくなってきています。
市街化調整区域の不動産は住宅ローンの承認が下りない可能性がある
市街化調整区域の不動産の場合、開発許可のない場合や43条許可の得られない場合には住宅ローンの審査の承認を得ることはできません(そもそも住宅を建てられないのですから、当然と言えば当然ですが……)。
逆に、開発許可のある場合や43条許可の得られる場合には住宅ローンの承認が得られないことはそう多くはありません。
住宅ローンの承認が得られないケースとしては、市街化調整区域だからというより、僻地にあるなど何らかの理由で不動産価値が著しく低いといったことが理由の場合が多いでしょう。
市街化調整区域の土地の評価は今後どうなるの?
市街化調整区域は、基本的に市街化区域の土地と比べると評価が低く、今後もそのこと自体が変わることはないでしょう。
特に開発許可がなかったり、43条許可が得られなかったりする土地については、土地の評価はかなり下がります。
現在は政府がコンパクトシティ構想を掲げていることもあり、市街化調整区域での建物の建築はより厳しい状態です。
今後、この方針が変わり、市街化調整区域における建築の許可基準が緩むことがあれば、土地の評価も上がる可能性があります。
市街化調整区域の土地を売買する際の注意点
市街化調整区域の土地を売買するにあたり、注意しておくべき点を「買主と売主双方の注意点」として4つ、「売主の注意点」として1つ、「買主の注意点」として1つご紹介します。
買主と売主双方の注意点
- 地目は「農地」ではないか確認する
- インフラが整っているかを確認する
- 自治体の条例はどうなっているかを確認する
- 以前の都市計画区域を確認する
売主の注意点
- 市街化調整茎の売買実績のある仲介会社を選ぶ
買主の注意点
- 売買契約には特約を盛り込む
それぞれ詳しく解説していきます。
【売主/買主】地目は「農地」ではないか確認する
まず、地目が農地になっていないかどうかを確認しましょう。
農業従事者以外の方が「農地」を保有していても利用価値はほとんどないため、農地の場合は農地転用できるかどうかがポイントとなります。
市街化調整区域になっている土地の中には、農地を宅地に転用できない土地があります。
こうした土地の場合、買主は農業のできる人に限られてしまいます。
また、農地転用できる農地を購入して建物を建築する場合、農地転用の手続きに数カ月かかるため余裕を持ってスケジュールを組む必要があります。
【売主/買主】インフラが整っているかを確認する
居住用の建物は水道(上下水道)やガス、電気などのインフラが整っていないと建築することができません。
これらのインフラを整えるには、膨大な金額がかかることが少なくありません。
売主としては整備費用を負担しても利益を得られるのかどうか、買主としては未整備のまま購入する場合には、整備費用にいくらかかるのかをよく検討することが大切です。
なお、売主が未整備の土地を整備して売却するのにはメリットとデメリットがあり、個別に判断する必要があります。
未整備の土地を整備して売却するメリットは、買主を見つけやすくなること。
買主側から見ると未整備の土地はリスクがあり、手を出しづらいです。
一方、未整備の土地を整備して売却することのデメリットは、先に費用を負担したのに関わらず買主が見つからない、もしくは売却代金で整備費用を回収できないリスクがあることです。
不動産の売買価格は成約するまで分かりません。
特にインフラが整っていないような地域では物件の流通量はそう多くなく、周辺相場も当てになりません。
こうした土地をお持ちの場合、まずはインフラを整備するのにいくらかかるのか見積もりを取りましょう。
先に負担できる額であれば整備し、数百万円を超える程高額である場合には、未整備のまま長い目で売却を続けていくことをオススメします。
【売主/買主】自治体の条例はどうなっているかを確認する
市街化調整区域の土地の上に建物を建てられるかどうかの許可基準は自治体によって異なります。
市街化調整区域の土地を売りたい/買いたい場合にはまず対象の土地がある自治体の窓口に問い合わせしてみるとよいでしょう。
【売主/買主】以前の都市計画区域を確認する
市街化調整区域に線引きされる前に建てられた建物である場合、建て替えや増改築の際の条件が緩くなるのが一般的です。
具体的には、買主が建物を購入後、建て替えや増改築をする場合でも「用途(住宅)が同じ」、「敷地が同じ」、「延床面積は1.5倍まで」であれば許可が不要となります。
建物の築年数が数十年など古い建物である場合には役所の窓口で確認してみるとよいでしょう。
なお、建築確認許可を得る前に建物を解体してしまうと、ただの市街化調整区域にある土地として扱われるため、売主は売却前に建物を解体しないよう注意しましょう。
【売主のみ】市街化調整区域の売買実績のある仲介会社を選ぶ
市街化調整区域の土地は流通が少ないこともあり、仲介会社によっては市街化調整区域における建築許可基準について把握していないことがあります。
実際に流通している物件の中にも、やり方によっては建築許可を得られるのにも関わらず「建築不可物件」として売りに出されているようなケースもあります。
建築不可物件では買い手はなかなか出てこないでしょうし、仮にいたとしても大幅な値下げが必要でしょう。
上記のようなことにならないためにも、仲介を依頼する会社は過去に市街化調整区域の土地を売買した実績のある会社や、市街化調整区域の多いエリアの近くにある事務所などを選ぶことをオススメします。
【買主のみ】売買契約には特約を盛り込む
市街化調整区域にある土地を購入する場合は、建築の許可を得られる見込みが立っている場合でも、万全を期して「〇〇年○○月○○日までに許可基準を得られない場合には契約を白紙撤回する」といった特約を盛り込んでもらうとよいでしょう。
なお、住宅建築のための土地購入に際して、先に土地だけ購入する場合がありますが、市街化調整区域にある土地を購入する場合は、事前に住宅会社を通して、建物が建てられるかどうかを調べてもらうことをオススメします。
役所に行って自分で調べることもできますが、一度プロの目を通して調べてもらったほうが安心できます。
市街化調整区域の土地を求める買主の例
市街化調整区域の土地は原則として建物を建てることができず、土地としての価値が低く設定されていますが、中には市街化調整区域の土地をあえて求める方もいらっしゃいます。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 土地取得費用を抑えたい
- 広い土地が欲しい
- 自然の多い場所に家を建てたい
- 開発目的の事業者
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
土地取得費用を抑えたい
市街化調整区域の土地を求める理由として、一番多いのは「土地を安く取得できる」ことです。
市街化調整区域の中には、現実としてすでに建物が多く建っている住宅街なのにも関わらず、市街化調整区域であることを理由として価格が抑えられている物件もあります。
これは、過去には現在のように市街化調整区域での建物の建築が難しくない自治体もあり、そうしたエリアで過去に建てられた建物や、開発許可を得たものの開発していない土地などがあるからです。
こうしたエリアでは市街化調整区域の土地にしては高い価格設定であることが多いものの、市街化区域の土地と比べると安いことが多いです。
そのため、多少不便でも土地取得費用を抑えたい人が土地を求めることがあります。
ただし、市街化調整区域にある土地については、一般的に下水道や都市ガスが整備されていないといった問題点があります。
売主としては、買主が浄化槽設置費用や水道引き込み費用、プロパンガスの利用料なども負担しなければならないことを考慮した上で価格設定するとよいでしょう。
広い土地が欲しい
一般的に市街化調整区域にある土地は面積の広い土地が多く、また坪単価が低いため広い土地でも安値で購入しやすい、という点がメリットとして挙げられます。
家を建てる際の条件として「広い庭が欲しい」、「駐車場のスペースとして数台確保したい」、「隣地と近すぎるのはNG」といったことや「自営業で小さな事務所を確保したい」、「仕事用のトラックを置きたい」といったことを挙げられている方が買主として想定できるでしょう。
自然の多い場所に家を建てたい
市街化調整区域は市街化の進められていない郊外に設定されていることが多く、自然の多い環境であることが多いです。
そうした土地では、「自然の多いところで子供をのびのびと育てたい」、「自然の中に建つ隠れ家のような家を建てたい」といった方が買主として想定できます。
開発目的の事業者
開発目的の事業者は「できるだけ安く買い取り、開発して、利益を乗せて販売する」ことが目的のため、安く購入しやすい市街化調整区域の土地が対象となることがあります。
市街化調整区域の土地の売却を考えている時には、開発会社や建売業者などに話を持ち掛けてみるのもよいでしょう。
もちろん、開発許可の得られない土地を買い取ってもらうことはできませんが、まずは開発許可を得られるかどうかを含めて相談するといったことも可能です。
ただし、開発会社や建売業者は土地を買い取って造成した上で利益を見込まなければなりません。
ある程度まとまった広さが必要な点と、一般的な相場と比べると3~4割程度での買い取りとなることもある点には注意してください。
まとめ
市街化調整区域の土地について、基本的な知識から注意点、買主の動向についてお伝えしました。
市街化調整区域の土地を売却しようとする場合、基本的には「その上に建物を建てられるかどうか」によって売却できるかどうかが大きく左右されます。
具体的な建築の許可基準については自治体によって異なるため、土地のある自治体の窓口に尋ねてみるとよいでしょう。
土地売却の基本的な流れについては、下記の記事で確認しましょう。
宅地建物取引士 監修 逆瀬川勇造
明治学院大学を卒業後、地方銀行にてリテール業務に従事し顧客の住宅ローンやカードローンなど担当。その後、住宅会社の営業部長として新築住宅の販売や土地開発等の業務に7年間従事しました。 Webを通して住宅や不動産の問題を解決することを志向し2018年10月に独立。 最近の趣味は子育てです。