外壁塗装が予定の工期より遅延した

外壁塗装が予定の工期より遅延しているので費用を請求したい
最初に契約した際にもらったスケジュールから、工事がかなり遅れてしまっています。
雨などが降った日もありましたが、晴れている日も作業をしたりしなかったり、いざ作業を始めてもすぐに帰ってしまったりなど、真面目に仕事をしているように見えません…。
また、工期が遅れているにも関わらず、職人さんからも営業さんからも、連絡が全くありません。
たしかに、「スケジュールが遅れることもあります」とは聞いていたものの、何の連絡もないので不安です。
契約の決め手のひとつが、素早く工事が終わるスケジュールだったので、約束が違うと思います。
法律的に、料金の減額や損害賠償の請求は可能なのでしょうか?
(60代/女性)
弁護士 生井絢子さんからの回答
外壁塗装の工事は、天気や気候の影響を受けやすく、予定されたスケジュールから遅延することはよくあるトラブルの1つです。
こうした場合、料金の減額や損害賠償の請求はできるでしょうか。また、どのように請求すべきでしょうか。
ポイントは2つあります。
- スケジュールの遅延は法的な「遅滞」か?
- 遅延の責任は業者にあるか?
工期の遅延により、料金の減額や損害賠償請求ができるかどうかについては、上記2つが大きなポイントとなります。
以下で一つずつ解説していきます。
1スケジュールの遅延は法的な「遅滞」か?
工期の遅延により、料金の減額や損害賠償請求ができるというためには、前提として、その遅延が、法的な「遅滞」であることが前提となります。
ここで、「工期の遅延」、「スケジュールの遅延」といった場合には、2つの意味が考えられます。
一つ目は、予定された完成期限を徒過してしまっている場合。二つ目は、「〇月〇日までに着工」、「〇月〇日までにコーキング作業」、「〇月〇日までに下塗り」などと段階的に定められているスケジュールに遅延しているが、「完成期限」自体はまだ到来していない場合です。
完成期限を徒過してしまっている場合
「完成期限」は契約で定められていることが殆どですので、この場合、法的に「遅滞」の状態にあるといえそうです。
段階的に定められているスケジュールに遅延しているが、「完成期限」はまだ到来していない場合
この場合は少し複雑です。
スケジュール表については、契約の内容となっている場合もあれば、参考資料として提示されているだけの場合があるのです。
後者の場合、各段階ごとのスケジュールについては、契約内容となっていないため、「完成期限」の到来までは、法的に「遅滞」状態にはない、ということになります。そのため、この段階では、基本的に料金の減額や損害賠償の請求はできません。
ただし、遅延の程度が著しく、客観的に見て「完成期限」に間に合わないことが確実といえる場合には、「既に完成期限を徒過している場合」と同様に考えられる可能性があります。
なお、法的な「遅滞」の状態にはないという場合であっても、実際に遅れが生じている場合には、まずは現在の状況と遅滞の原因を業者に確認しましょう。そのうえで、新たに工事スケジュールを提示してもらい、その内容を契約の一内容として合意しておくと、その後の遅延については、法的な「遅滞」として責任追及することが可能となります。
また、理由の説明がない、連絡が取れない、といった事情については、業者側に正当な理由がないことを裏付ける事情ともなりますので、記録をとっておきましょう。
スケジュール表が契約内容となっているか否かについては、遅滞をめぐる紛争において、実務上良く争われる点です。トラブルを避けるために、契約書を締結する際には、スケジュール表を契約書と一緒に綴じて、一体の契約であることを明らかにする方法をお勧めしております。
本件では、「契約の決め手のひとつが、素早く工事が終わるスケジュールだったので、約束が違う」とのことですが、上記のとおり、当該スケジュールが契約内容になっていたかがポイントとなります。
既に「完成期限を徒過している場合」、「完成期限に間に合わないことが確実と思われる場合」、「スケジュール表が契約内容となっており、そのスケジュール表に遅延している場合」には、2の検討に移ります。
2遅延の責任は業者にあるか?
次に、「遅延」が業者の責任で発生したのか確認しましょう。
例えば、注文者の責任による遅延や、天災などの不可抗力による遅延は業者の責任とはいえないでしょう。一方で、特に理由なく工事を遅延しているような場合は、業者の責任による遅滞といえそうです。
業者の責任ではない場合(注文者の責任又は不可抗力による遅延の場合)
まず契約書を見てみましょう。
通常、不可抗力その他正当な理由により工事の遅延が生じた場合、業者は理由を説明して工期の延長を申し出ることができる旨の規定が入っています。この規定により期限が延長された場合、当初の完成期限から遅延したとしても、工事代金の減額や損害賠償請求はできません。
一方で、遅延が業者の責任でないとしても、業者が何ら連絡や交渉もせず、予定していた完成期日から大幅に遅延したような場合には、契約違反として工事代金の減額や損害賠償請求が認められる可能性が高くなります。
業者に責任がある場合
違約金や遅延損害金の定めがないか、契約書を見てみましょう。
違約金や遅延損害金の定めがある場合、その定めに従うことになります。
例えば、注文者が業者に対して、「遅滞日数に応じて、工事請負代金に対し年10%の割合で計算した額の違約金を請求することができる。」などの規定が一般的です。
遅延損害金の定めがない場合には、注文者の側から損害額を主張・立証する必要があります。例えば、工事中に建物を利用できない場合の仮住まい費用、営業損害等が考えられますので、これらの金額を具体的に示す資料を提示したうえで、業者に請求していくことになります。
本件については、特に理由なく工事が遅れており、その理由の説明等もないようですから、「業者に責任がある場合」に該当しそうです。
そのため、契約書を確認し、違約金や遅延損害金の定めがあれば、その定めに従って損害賠償請求をし、あるいは損害賠償金と報酬金を相殺することで代金減額を申し入れることになります。
契約書に上記の定めがない場合、遅延によって生じた損害額を計算し、資料を付けて業者に請求することになります。
実際に業者に対して、損害賠償請求や代金減額を求める場合には、上記のとおり、法的な「遅滞」があるか、遅滞の責任は誰にあるか、損害の額など、複雑な論点が登場します。また、上記の点が明らかであるとしても、業者が強硬な態度で交渉に応じないなど、ご自身での交渉が難しいことが考えられますので、この場合には、お近くの弁護士にご相談ください。
監修者情報

監修者:弁護士 生井絢子 品川高輪総合法律事務所 パートナー
早稲田大学法学部 卒業
一橋大学法科大学院 修了
2012年11月 最高裁判所司法研修所 入所(66期)
2013年12月 弁護士登録 都内法律事務所勤務
2018年1月 品川高輪総合法律事務所参画
企業法務のほか、一般民事、刑事事件等、企業・個人の依頼者様の様々なニーズにお応えして業務を行っております。
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