老後資金はいくらあれば安心?老後の生活費と必要な貯金額の目安
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退職後に生活していくための老後資金は、単身世帯で3,000万円以上、夫婦二人で6,000万円以上もの金額が必要になります。この資金を年金だけで賄うことは難しいため、できるだけ早いうちから資産形成について考え、貯蓄を始めることが大切です。
しかし、どのように老後の資金を貯めれば良いのか分からないという方も多いでしょう。老後資金の準備方法は、退職金やiDeCo、NISA、財形貯蓄などの活用がおすすめです。今回は、老後の生活費と必要な貯金額の目安、資金の準備方法などについて解説します。
目次
金融デザイン株式会社取締役。一級ファイナンシャルプランニング技能士。 大学卒業後、信託銀行に就職。信託銀行退職後、イベント会社、不動産コンサルティング会社を経て、1996年、ファイナンシャルプランナーとして独立。著書に「住宅ローン 賢い人はこう借りる!(共著、PHP研究所)」「絶対に知っておきたい!地震火災保険と災害時のお金(自由国民社)」など。「私にできるお金のため方・ふやし方」を学ぶオンラインゼミ「お金の知恵アカデミー」を主催。
老後資金は3000万円以上必要
総務省が発表している「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)」によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の1か月あたりの平均支出額は255,550円となっています。この支出が男性の平均寿命である85歳まで続くことを想定して計算すると、夫婦二人で65歳時点で61,332,000円もの資金が必要になります。
また、単身世帯の場合の65歳以上の1か月あたりの平均支出額は144,687円であることから、同じく男性の平均寿命である85歳までの期間にかかる資金を計算すると34,724,880円となります。
以上のことから、老後の資金は単身であっても少なくとも3,000万円以上、夫婦二人となると6,000万円以上必要であることが分かります。
夫婦二人:61,332,000円
(平均支出額255,550円/月×12ヶ月×20年)
単身:34,724,880円
(平均支出額144,687円/月×12ヶ月×20年)
定年後の公的年金だけでは不足するお金
65歳からは公的年金を受け取れるので、定年を迎えたからといって完全に収入が絶たれてしまうわけではありません。しかし、公的年金だけでは、前述の3,000万円以上必要になる老後資金は賄えない可能性が高いでしょう。
公的年金には、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。国民年金は日本に住む20~60歳の国民全員が加入する年金制度で、「基礎年金」とも呼ばれています。一方、厚生年金は公務員や企業の会社員などが加入しているもので、国民年金に上乗せされる「2階建て」の年金制度です。
国民年金と厚生年金の平均受給額は、大きく異なっているのが現状です。厚生労働省が発表した「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民年金と厚生年金の平均受給額は下記の表のようになっています。厚生年金に加入していた場合は、男性で月額約16万円、女性で約10万円の受給額ですが、国民年金だけだと5万円台と少なくなっています。
性別 | 国民年金(基礎のみ) | 厚生年金 |
---|---|---|
男性 | 56,431円/月 | 164,770円/月 |
女性 | 51,042円/月 | 103,159円/月 |
そのうえで、国民年金と厚生年金の平均受給額を世帯の状況別に見てみると、下記の表のような結果になります。
性別 | 平均年金受給額 |
---|---|
共働き世帯(夫婦ともに会社員や公務員) | 267,929円/月 |
会社員(男性)+専業主婦・自営業 | 215,812円/月 |
会社員(女性)+専業主夫・自営業 | 159,590円/月 |
単身会社員(男性) | 164,770円/月 |
単身会社員(女性) | 103,159円/月 |
ただし、あくまでも上記の受給額は現在受給している人の平均額です。受給額は加入年数や、現役時代の報酬額によるので、実際の受給額は上記よりも多いことはありますし、少ない可能性もあります。
(女性の受給額が少ない傾向にありますが、これは、あくまでも現在受給している人の現状であり、制度としての男女の違いはありません。)
以上を踏まえて、老後に備えて準備しておかなければいけないお金について、夫婦二人、単身の場合に分けて紹介します。
夫婦2人の場合
年金受給額と1か月あたりの支出額の差額が、生活費として不足する金額と考えられます。
平均額で見た場合、夫婦2人の世帯の勤務形態別の不足金額は下記の表のとおりです。
勤務形態 | 平均支出額 | 平均年金受給額 | 毎月の不足金額 | 必要な貯蓄額(20年分) |
---|---|---|---|---|
共働き世帯(夫婦ともに会社員や公務員) | 255,550円/月 | 267,929円/月 | -12,379円/月 | -2,970,960円 |
会社員(男性)+専業主婦・自営業世帯 | 215,812円/月 | 39,738円/月 | 9,537,120円 | |
会社員(女性)+専業主夫・自営業世帯 | 159,590円/月 | 95,960円/月 | 23,030,400円 |
夫婦ともに会社員や公務員の共働きであれば平均支出額よりも平均年金受給額が上回るので、計算上は黒字になります。夫婦どちらかが会社勤めでない場合は、平均支出額に対して年金の平均受給額が下回るため、貯蓄が必要になります。
独身一人暮らしの場合
平均額で見た場合、単身会社員の男女別の不足金額は下記の表のとおりです。
男女別 | 平均支出額 | 平均年金受給額 | 毎月の不足金額 | 必要な貯蓄額(20年分) |
---|---|---|---|---|
単身会社員 (男性) | 144,687円/月 | 164,770円/月 | -20,083円/月 | -4,819,920円 |
単身会社員 (女性) | 103,159円/月 | 41,528円/月 | 9,966,720円 |
単身会社員の場合、1か月あたりの男性の平均年金受給額は平均支出額を2万円程度上回っていますが、女性の場合で見ると平均支出額を4万円程度下回っており、貯蓄が必要になる可能性が高いといえます。
ただし、こちらもあくまで平均値であるため、女性だからといって必ず年金支給額が少ないわけではありません。平均年収が女性の方が少ない傾向にあるため、その分支給額が少なくなりやすいことから上記のような結果となっています。
「老後2000万円問題」とは
老後2000万円問題とは、金融庁が組織する「市場ワーキング・グループ」という金融審議会が令和元年6月に取りまとめた報告書の中で、「老後30年間で約2,000万円が不足する」と言及されたことから注目を集めた問題です。
報告書の中には、「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300万円、30年で約2,000 万円の取崩しが必要になる。」と記載されています。
報告書において2,000万円が不足すると言及された根拠となる試算は、「総務省の家計調査(2017年)」で挙げられている高齢夫婦無職世帯の「実収入」と「実支出」のそれぞれの平均値を使って行われています。
この調査では、夫65歳以上、妻60歳以上の「高齢無職世帯」の実収入は209,198円、実支出は263,718円であるとされています。実支出から実収入を差し引くと次のようになります。
263,718円-209,198円=54,520円
つまり、毎月約55,000円が不足することになり、夫95歳、妻90歳までの30年間健康であるとすると、次の金額が不足することになります。
55,000円×30年間×12ヶ月=19,800,000円
これが、「老後2000万円問題」の根拠となる数値です。
年代別の平均貯蓄額
それでは、実際にはどれほどの人が、どれだけの貯蓄を残しているのでしょうか。総務省が取りまとめた「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2020年(令和2年)平均結果-」によれば、世帯主の年齢階級別貯蓄額の平均は次のとおりです。
年代 | 平均貯蓄額 |
---|---|
40歳未満 | 708万円 |
40歳~49歳 | 1081万円 |
50歳~59歳 | 1703万円 |
60歳~69歳 | 2384万円 |
70歳以上 | 2259万円 |
40歳未満の貯蓄額は1,000万円に達していませんが、40歳以上では平均貯蓄額が1,000万円を超えています。また、老後2000万円問題に述べられている2,000万円の貯蓄額は、60歳以上ではクリアしていることも分かります。
一方で、全体の4割が負債保有世帯であり、その9割が住宅・土地のための負債となっています。負債保有世帯の平均負債額は572万円です。このことから、負債保有世帯ではある程度の貯蓄額があっても実態は上記の表ほどの資産を保有していない状況にあるといえます。
安心して過ごすための老後資金の準備方法
公的年金だけでは不足する分については、自分自身で準備する必要があります。
老後までに3000万円を貯蓄しておくためには、どのくらいの貯蓄額が必要でしょうか?
それぞれの年齢時点では、下記のお金を毎月貯蓄していく必要があります。
年齢 | 65歳定年までの年数 | 老後までに3,000万円貯蓄するために必要な積み立て金額/月 |
---|---|---|
40歳未満 | 25年 | 100,000円 |
45歳 | 20年 | 125,000円 |
50歳 | 15年 | 166,700円 |
55歳 | 10年 | 250,000円 |
60歳 | 5年 | 500,000円 |
老後の資金準備のための方法には、次のような制度などがあります。
老後資金の準備方法の例
- 退職金
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
- NISA(少額投資非課税制度)
- 財形貯蓄
会社を退職する際に一時金や年金として支給される退職金や、資産運用の一種であるiDeCo、NISA、会社などで加入する財形貯蓄などを利用すると、老後資金を計画的に準備できるでしょう。
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。
退職金
退職金とは、企業が従業員の勤続年数に応じて退職時に支払う一時金・年金のことです。ある程度の勤続年数があれば退職金はまとまった金額になるケースが多いため、退職金を老後の資金計画に入れている世帯も多いといえます。
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によると、勤続20年以上の定年退職者の平均退職金給付金額は次のようになっています。
大学・大学院卒 | 高校卒 | |
---|---|---|
勤続20~24年 | 1,267万円 | 525万円 |
勤続25~29年 | 1,395万円 | 745万円 |
勤続30~34年 | 1,794万円 | 928万円 |
勤続35年以上 | 2,173万円 | 1,954万円 |
このように、退職金は給付金額が大きいため、勤続年数が長い人ほど老後資金に充てやすいのが特徴といえます。
ただし、平成30年の大学卒(管理・事務・技術職)の平均退職金給付金額の全体平均が1,983万円であるのに対して、平成20年の全体の平均退職金給付金額は2,280万円、15年は2,499万円であることから、退職金受給額は減少傾向にあり、退職金をあてにしにくい情勢であることも事実です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
ここからは、退職金では不足する老後資金を自分で準備するための手段についてご紹介します。
iDeCoは「個人型確定拠出年金」とも呼ばれる私的年金制度であり、「確定拠出年金法」に基づいて行われています。任意加入であり、毎月掛金を拠出して運用商品を選び、原則60歳以降に受け取る制度です。
毎月の掛け金は5,000円以上、上限額は公的年金の被保険者種別や勤め先の企業年金制度の加入状況により異なります(第1号被保険者(自営業等)の場合は68,000円/月)。受け取り額は、掛金とその運用益の合計額となります。
iDeCoは掛金と運用益、受け取り金に対して税制上の優遇措置がある点がメリットです。掛金は全額所得控除の対象となり、運用中の収益は非課税です。また、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」を、一時金の場合は「退職所得控除」を利用できます。
ただし、運用状況によっては元本割れする可能性があったり、原則として60歳まで資金を引き出せなかったりする点はデメリットといえます。また、加入時や運用時、受け取り時に、それぞれ所定の手数料がかかります。
NISA(少額投資非課税制度)
NISAとは、「NISA口座(非課税口座)」内で購入した、上場株式や株式投資信託などの売却益や運用益が非課税になる制度です。通常は金融商品を売買して得た利益や配当金等には約20%の税金がかかりますが、NISAを活用すると税金がかからずに利益を全額受け取ることができます。
ただし、NISA口座は「損益通算」ができないというデメリットもあります。一般口座や特定口座で保有している株式等の場合は、利益が出たものと損失が出たものがあれば、相殺することができ税金を少なくすることが可能です。しかし、NISA口座で損失が出たとしても、他の口座との「損益通算」はできないことには注意しましょう。
財形貯蓄
財形貯蓄とは、「勤労者財産形成促進制度」という国が定めた制度で、国と企業が連携して実施している貯蓄制度です。企業に勤める従業員の資産形成を支援する目的で行われています。毎月企業が提携している金融機関へ会社を通じて給与の一部を積み立てて、資産形成を行います。
財形貯蓄には一般財形貯蓄、財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の3種類があります。
財形住宅貯蓄は持ち家の建設・購入・リフォームを目的とするもの、財形年金貯蓄は老後の生活資金づくりを目的とするもので、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄を合わせて550万円までは利子等に税金がかかりません。(保険型で積み立てる場合には、財形年金貯蓄については保険型の場合には払込限度額385万円まで、財形住宅貯蓄と合算で550万円まで非課税)
一般財形貯蓄の使用目的は自由です。ただし、利子等には課税されます。
なお、財形住宅貯蓄・財形年金貯蓄とも目的以外の払い出しも可能ですが、その場合には、利子等に課税されます。
3種類の財形貯蓄制度
- 一般財形
- 住宅財形
- 年金財形
財形貯蓄のメリットは、給与からの天引きとなるため、計画的に貯蓄を進めることができるのがメリットです。
ただし、定期預金を除く財形保険や投資信託などの一部商品によっては元本割れするリスクがあるので商品の選択には注意しましょう。
このように、老後の資産形成を行うために取れる方法はいくつかあります。自分の状況と照らし合わせて、どれが適しているかを見極めながら、自分に合った方法を選んで無理なく老後の資金を準備していきましょう。
まとめ
老後資金は夫婦二人で6,000万円以上、単身世帯でも3,000万円以上必要だといわれています。「老後2000万円問題」でも指摘されているように、公的年金のみをあてにして老後生活を送ろうと考えていると、老後の生活が苦しくなる可能性もあります。資金の不安を抱えることなく豊かな老後を送るためには、計画的に老後の資金形成を行っていくことが重要です。
老後の資産を形成する方法は、企業から支払われる退職金やiDeCo、NISAなどの資産運用、財形貯蓄制度を利用した積み立てなどいくつかあります。自身に合った方法を選んで、できるだけ早めのタイミングで資産形成を始めることをおすすめします。
老後のための資金はどのくらいあれば足りるのか不安に感じる方も少なくありません。その不安を払拭する一番の方法は、自分のケースで試算しておくことです。「生活費はどのくらいかかるのか?」「年金はいくらくらいもらえるのか?」など最初は平均額からでもいいので、把握しておきましょう。そして、老後資金の準備を始めるのは早ければ早いほど後が楽になります。ただし、現役時代に使うお金とのバランスも難しいところ。必要なお金を必要な時に使えるようにしておくには、貯める手段もきちんと選ぶことがとても重要です。貯めるために使える制度や金融商品の特徴、メリット・デメリットも知っておいてくださいね。